大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

最高裁判所第二小法廷 昭和28年(あ)5086号 判決

主文

本件上告を棄却する。

理由

弁護人香田広一の上告趣意について

控訴審が一審判決の当否を判断するため事実の取調を進めるにつれ、検察官から訴因変更の申出がある場合に、控訴裁判所は審理の経過に鑑み、訴訟記録並びに原裁判所及び控訴裁判所において取り調べた証拠によって原判決を破棄し自判しても被告人の実質的利益を害しないと認められるような場合においては、訴因変更を許すべきものと解するのが相当である。これを本件について見ると、原審では控訴趣意について事実の取調をして、一審判決の当否が十分検討された段階において、検察官から予備的訴因の追加請求があったのである。そこで原審では弁護人の意見をきいた上、(その際弁護人は「別に意見なし」と述べている。)右請求を許可する決定をして、その上被告人、弁護人の最終陳述があって結審されている。かような審理の経過からして、原審が訴因変更の請求を容れ、右に基き一審判決の業務上横領の認定をかえて背任の事実を認定しても、被告人の実質的利益はすこしも害されていないこと明らかである。所論は違憲をいうがその実質は本件のような場合に控訴審において訴因の変更を許すべきでないと主張するに帰し、その理由ないこと右に説明したとおりであるから採用できない。

よって同四〇八条により裁判官全員一致の意見で主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 栗山茂 裁判官 小谷勝重 裁判官 藤田八郎 裁判官 谷村唯一郎 裁判官 池田克)

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!
©大判例